「加茂堤・筆法伝授」
梅の頃、京都加茂堤に天皇の病気平癒のため皇弟斉世親王の舎人桜丸、左大臣藤原時平の舎人松王丸、右大臣菅丞相こと菅原道真の舎人梅王丸が主人を待っていた。3人は三つ子の兄弟で父親の四郎九郎は菅丞相の別荘の管理人をしている。親王はかつて恋仲だった菅丞相の養女苅屋姫と桜丸夫婦の手引きで牛車の中で密会していた。そこを三好清貫に知られ駆け落ちしてしまう。一方菅丞相は勅命により筆道の奥義を弟子武部源蔵夫婦に秘法を教える。実は源蔵は奥方園生の前の腰元戸浪と不義密通を犯して勘当されていたのだった。
しかし「伝授は伝授、勘当は勘当」といって許されず今生の暇乞いをして源蔵夫婦は去っていく。その後、菅丞相が参代すると、時平が讒言で斉世親王と苅屋姫の密通は天皇の譲位を企てるためだと言って、勅勘の身となる。源蔵夫婦は梅王と協力して丞相の子菅秀才を救出する。
「道明寺」
流罪になり九州に向かう丞相は汐待ちの間警護の情けで河内の国の伯母覚寿の館に滞在する。覚寿は立田という土師兵衛の息子宿弥太郎の妻と丞相の養女苅屋姫の2人が娘だった。
土師兵衛と宿弥太郎は時平の命を受けて丞相を暗殺しようとするが立田に秘密を知られ惨殺する。丞相が彫った木像が身代わりとなり難を逃れ覚寿は宿弥太郎を殺し土師兵衛は首を討たれる。丞相は名残を惜しみ九州へ旅立つ。
「車引」
菅家再興に奔走する梅王丸と、斎世親王と苅谷姫の恋を取り持ったことに 責任を感じていた桜丸が吉田神社にて主人の不運を嘆きあう。そこに参詣しにきた藤原時平の行列を襲うが、松王丸が牛車の前に立ちはだかる。梅王丸と桜丸がそれでもかと牛車を壊しにかかると、時平が鋭い目つきでふたりを射すくめた。
結局父親の「賀の祝」のあとで決着をつけることにする。
「賀の祝」
三人の父親四郎九郎は丞相遺愛の梅松桜の木を守って暮らし、年は70になっていた。この祝いの日に白太夫という名前を賜って子供達が帰ってくることになっていた。松王丸の女房・千代、梅王丸の女房・春、桜丸の女房・八重もかけつけ祝いの膳を作るが、息子たちが遅いので、白太夫は八重を伴って氏神詣に出かける。
留守に松王丸と梅王丸が来て喧嘩になり、桜の枝を折ってしまう。帰ってきた白太夫に、梅王丸は筑紫に行きたいと願い、 松王丸は勘当を受けたいと言い、白太夫は怒って夫婦たちを追返す。夫が来ないのを案じた八重の前に、桜丸が姿をあらわした。丞相流罪の種をつくったのは
自分だからと自害した。
「寺子屋」
筆法を伝授された芹生の里に住む武部源蔵の寺子屋。時平は菅丞相の一族詮議で各地に厳しく見張りをしている。庄屋に呼ばれていた源蔵が心痛な顔つきで帰って来る。昔の勘当の原因になった腰元の戸浪に弟子入りした小太郎を
引きあわせる。何かしらを感じた戸浪がたずねると、我が子と偽って かくまっている菅丞相の首を討って差出すように厳命されたと言う。
しかし恩ある方の若君の首を討つなどできないから、小太郎を身替わりにする考えと夫婦で覚悟を決める。 やがて、検使役の春藤玄蕃と首実検をする松王丸がやってくる。
秀才の首を迫る松王丸に、源蔵は奥へと入ると首桶を抱えて差出した。首を確認した松王丸は、 「秀才の首に相違ない」と言いり帰って行く。
玄蕃が首桶を持ち帰りほっとしたところに 小太郎の母親千代が息子を迎えに来て「菅秀才の身替わりつとまりましたか」と言う。びっくりしたふたりに松王丸が役に立ったぞと言いながら入ってくる。
実は、小太郎は松王丸の子で、身替わりにさせるつもりで源蔵の弟子にさせたのだった。 わが子への思いに涙にくれる松王丸と千代、ただただ感動する源蔵と戸浪であった。
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